Ark20_LargeHero_Music.png
2020年6月01日

Arkaneの生み出す音楽

ハープシコードの短く鋭い音色や、シンセサイザーの柔らかく流れるようなアルペジオ。音楽はゲーム内世界の雰囲気を作り上げるだけでなく、その場にふさわしいメロディーによって、ある瞬間を記憶に焼き付けることもできます。音楽とは、静寂を埋めるだけのものではありません。それ自体の持つ物語を伝える言語です。音楽は雰囲気を作り上げるものです。テンポの速い戦闘曲に勇気づけられることもありますし、流れてきた優しく切ない調べに、しばし足を止めて辺りを見回してみようという気にさせられることだってあります。Arkaneのチームにとって、音楽はただの補助的な環境要素ではありません。音楽はArkaneが生み出す世界の一部であり、Arkaneが作ってきたどのゲームでも欠かせない要素なのです。

ふさわしい音楽の生み出し方

『Dishonored』の荒廃した都市の空気感や、『Prey』のレトロフューチャー風のSF世界など、Arkaneはゲームとその世界の雰囲気を作り上げる要素として音楽を用いています。チームがどんなタイプの音楽にするかを考えるにあたっては、多くの場合、作品の雰囲気に最も合いそうな楽器を決めることが第一歩となります。

Arkane LyonのシニアサウンドデザイナーであるThomas Mittonは次のように語っています。「『Dishonored』の制作準備期間中、私たちは楽曲に関する2つの主要指針を定義しました。まず、金管楽器は避けることにして、弦楽器、特にチェロとハープシコードを使おうと思いました。かつての栄光は影もなく衰退した帝国のノスタルジアを表現するためです。そこから、“楽曲はダンウォールの一部でなければならない”という2つ目の主要指針を打ち立てました。音楽は単なる飾りとしてではなく、命あるものとしてゲームにそのまま溶け込んでいなければなりません。これは、私たちが取り組むどんなプロジェクトにおいても非常に重視していることです」

とはいえ、作品にピッタリの音楽要素を見つけるまでのプロセスは簡単ではありません。そのためには、常識にとらわれない思考が必要となるときもあります。その例として、Arkaneチームは2017年に亡くなった作曲家Daniel Lichtの才能を借りました。

Arkane Austinのスタジオ/クリエイティブディレクター、Harvey Smithが振り返ります。「偉大な故Daniel Lichtと共に仕事をすることができて、私たちは本当に恵まれていました。初めてDanielに依頼したのは、インダストリアル風の音作りを取り入れたクラシック音楽でした。それにかけては彼に並ぶ者はなかったためです。あるときはドラマチックで、あるときは不気味に軋むような曲は、すっかり堕落し疫病の巣食う1800年代のイギリスの都市を舞台にしたステルスゲームにピッタリでした。『Dishonored 2』の開発中に起こった、ある忘れられない出来事があります。Danielとのビデオ会議で『Dishonored 2』と前作との違いを説明していたんです。舞台やキャラクター、カルナカとダンウォールの文化の違いとか… すると彼は立ち上がり、スタジオの奥へ歩いて行くと、壁にかかったブズーキ([ギリシャのギター])を手にして席に戻ってきました。そしてDanielは『Dishonored』の楽曲をロマニー風に演奏し始めたんです。みんな鳥肌が立ちました。まさに私たちが求めていたものを、彼は一発でやってのけたのです」

「Danとは『Dishonored 2』と『Death of the Outsider』で再び仕事をする機会に恵まれました。彼が亡くなる直前のことでした」とMitton。「本当に惜しい人を亡くしました。彼の作品はいつまでも人々の記憶に残ることでしょう。Danielの音楽は、ほぼ7年間にわたって共に作り上げてきた世界に欠かせないものです。これからも私たちは彼の作品からインスピレーションを得ると思います」

新たな世界に新たな音楽を

Arkane Lyonの次回作『DEATHLOOP』についてはどうでしょうか? ブラックリーフ島は、カルナカの色鮮やかな海岸や、ダンウォールのヴィクトリア朝時代の暗い街路とはかけ離れています。その混沌の本質を、音楽という形でどうとらえるのでしょうか? 答えは「不可能」です。あるいは、単独の音楽ジャンルでは、と前置きを付けるべきかもしれません。

Arkane Lyonで『DEATHLOOP』のオーディオディレクターを務めるMichel Tremouillerは、こう語ります。「まず、ゲーム内で最も重要な要素について決めます。プレイヤーにはっきりと伝え、ゲーム内で強調したい要素とは何かを決めるのです。たいていは、ゲームを表すいくつかのキーワードに焦点を当てます。これがオーディオチームの作業において良い取っ掛かりとなります。『DEATHLOOP』には、作品世界を作り上げている重要なキーワードや側面がたくさんあります。これはArkaneの歴代作品全てにいえることですね。『DEATHLOOP』のキーワードは、魔術、軍事、科学、ミステリアス、ノルトハイム、カーニバル… まだまだあります。当然ながら、このコンセプト全てをたった1つの音楽スタイルに詰め込むのは無理です。私たちは独自の複雑な作品世界を作っていくので、既存の音楽スタイルをコピーすることはできないんです」

では、Tremouillerのチームはどのような手法をとったのでしょうか? 60年代風のポップアートと冷戦時代の軍事施設がミックスされた、ブラックリーフ島の個性的なビジュアルをどのように解釈し、コルトの冒険を彩る楽曲を生み出したのでしょうか?

Tremouillerは説明します。「『DEATHLOOP』の音楽の雰囲気を一言で表すなら“サイコ・ロック”でしょうか。ブラックリーフ島の住民と同じく、ちょっとイカれた感じです。60年代後半から70年代前半の実験的なシンセサイザーを取り入れ、弦楽器やオーケストラ風のタッチなど『Dishonored』の楽曲の要素をいくつかブレンドすることで、他にはないものが生まれました。ブラックリーフの街を歩き回ると、とても独特な雰囲気を味わえるはずです。これまでにArkaneが挑戦したどんなものとも違っています」

『DEATHLOOP』の混沌としたエネルギーを音楽として表現することは大きな課題でしたが、Tremouillerとそのチームは楽しんで課題に取り組みました。「このゲームのクレイジーな本質をうまくとらえた楽曲になっていると思います」とTremouiller。「新たなゲームのために新たな音楽を生み出すのは、いつも刺激的で他にはない体験を味わえます。次の作品ではどんな世界に連れていってくれるのか、本当に楽しみです」

profile.png

Anne Lewis

Sr. Global Content Lead