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2020年8月10日

Arkaneのステージデザイン

“ボイル夫人の屋敷”、“イエローチューリップ”、“クロックワーク・マンション”、“厚板に入ったヒビ”、“モーガンのアパート”。

デザインの丁寧さに定評がありますが、それは“物語は細部に宿る”と考えているからです。ステージデザインは世界観を決定づけ、プレイヤーにとって無意識な形で情報を伝えるものです。その根本には、Arkaneの開発者一人一人がストーリーテラーであり、全てのディテールが“思わず引き込まれる生き生きとした世界を作り上げる”という目的に向けられている、という事実があります。

「ゲームの魅力のひとつは没入感です」と語るのは、 Arkane Austinでスタジオ/クリエイティブディレクターを務めるHarvey Smith。「その世界がリアルさにあふれ、説得力と一貫性が感じられれば… 完璧です。丁寧なステージデザインがなされたゲームは、プレイヤーの期待に応えることで、いい意味で期待を裏切れるんです。たとえば衛兵ですが、持ち場に来る前には寝場所や食事をする場所にいたはずです。プレイヤーと戦うために、ずっと持ち場に留まっているわけはありませんよね。それらしい出発点に戻る道もないのに、いきなり持ち場に出現するはずはないんです。同じように、屋根の上に登れるのなら、そこには鳥の巣があり、巣の中には貴重なアクセサリーか何かが入っているかもしれません。プレイヤーが気ままに寄り道や探索をできるようにして、それに対する報酬を用意することで、ゲーム世界での体験が本当に自分自身の体験として感じられるようになるんです。それこそが、私たちの隠し味の決め手なのは間違いありません」

デザインのインスピレーション

特集記事「ArkaneのDNA」で触れたように、Arkaneの創設者たちは自分が好きなゲームからインスピレーションを得ました。つまり、思わず引き込まれるような、自由度が非常に高いゲームです。その価値観は今のArkaneチームにも受け継がれており、彼らは尊敬する作品からインスピレーションを得ることを欠かしません。

Arkane Lyonのリヨンオフィスでリードレベルデザイナーを務めるYoann Saquetが語ります。「私たちのステージデザインのやり方は昔のゲームから大きな影響を受けていると思います。昔大好きでプレイしたり、MODを作ったりしたゲームです。『Thief』や『Deus Ex』からは、プレイヤーに特定のペースやルート、それに倫理観を押し付けるよりも、プレイヤーの意志やプレイスタイルの多様性を尊重することが大切だ、と学びました。Valveのゲームからも影響を受けています。どのステージもオリジナリティを発揮するチャンスだ、と考える大切さを強く教えてくれます。優れたゲームのステージは、プレイヤーに驚きを与えてくれるものです。私たちがインスピレーションを得たゲームは、どれもデザイン、アート、ストーリーといった分野が結びつき、お互いを補強し、揺るぎない世界を作り上げることで、ゲーム体験がどれほど力強いものになるかを示す素晴らしい例となっています。私たちは、様々なものから影響を受けながら“Arkaneのデザイン哲学”と呼べるものを生み出してきました。常にその哲学に忠実でありつつ、時代とともに進化していこうとしています」

Arkane Lyonのキャンペーンデザイナー、Dana Nightingaleはこう語ります。「私たちが重視しているのは、偶発的な体験、試行錯誤、ゲームシステム… そういったものが予想もつかない形でぶつかり合い、プレイヤーそれぞれに独自の瞬間が生まれるようにすることです。そのためには、なんといってもプレイヤーがゲーム内の道具を自由に使ったり、活用したりして探索できる空間が必要です。プレイヤーに障害物や目標、様々な可能性に満ちたシナリオを与えることで、プレイヤーにそういった道具を使わせ、創造性を引き出すことができるんです。ステージデザインとは、プレイヤーに機会と制約の両方を与えることで、ゲームシステムにおける選択に大きな重要性を持たせる手段です」

隠し味

Arkaneでは、ゲームのステージデザインに着手する際にどこから始めるのでしょうか? Arkane Lyonの優秀なステージデザイナーたちによれば、「全ては具体的なアイデアから生まれる」といいます。チームが印象的な体験を作り始める前に、まずは自分たちが制作しているステージの原動力、つまりデザインを魅力的なものにするコンセプトをはっきりさせる必要があるのです。

「ゲームのステージについて、いくつ実装するか、どんな見た目にするか、どれぐらいの長さにするか… そういったことを検討するずっと前に、まずアイデアを考え始めます」とNightingale。「考えられるのは、特定のゲームプレイシステムや、ストーリーの中の一瞬、プレイヤーが冒険するユニークな世界の設定、強く記憶に残るようなエピソードやイメージといったものですね。こうして集まったアイデアをもとに、ステージをどんな風にするのか定義します。こうすることで、どのステージも私たちが刺激的だと感じたコンセプトから生まれるのです」

Saquetはこう続けます。「各ステージの背景となる主なアイデアを定義したら、ステージデザインチームとステージアーティストの出番です。参考資料を集め、このアイデアに関連するテーマを探していきます。何ヶ月もこれを繰り返しながら、少しづつ協力して作り上げます。プレイヤーがステージを探索するときには、自由を感じてほしいのです。これは刺激的で驚きを感じられる体験でありつつ、人工的な“ゲームっぽさ”を感じさせない世界でなければなりません。これをゲームで実現するために、多大な時間と労力を費やして、手作業でステージを作っているんです」

Arkaneによるステージデザインへの取り組み方を説明する際に、私たちは“手作り”や“丁寧”という言葉をよく使います。無意味なエリアや見かけ倒しのディテールはありません。どんなに平凡な空間に見えても、路地や通路、崖のひとつひとつに意図があるのです。プレイヤーが探索を望むのなら、隅々まで探索するだけの価値があります。

Saquetによれば、『Dishonored 2』でアヴェンタ地区を作り直すのは、長く苦しい道のりだったとのことです。こういったエリアは最初に一通り作った後、路地やアパートのひとつひとつに至るまで興味深く感じられるよう、徹底的に作り直されました。Saquetが指摘するように、印象的な目的地と比べれば記憶に残らないような街路であっても、それがプレイヤーにとって重要であり、価値があるものとして感じられなければならないのです。

Nightingaleも同意します。「一番難しいのは、ゲームの基調となるような、何でもない“ありふれた”瞬間を作り出すことですね。最もドラマチックで刺激的な場面だけに力を入れたくなりますが、忘れてはならないのは、そういったハイライト以外の瞬間にも、私たちが作った世界の中にプレイヤーが存在していることです。こういった“ありふれた瞬間”における体験こそが、ゲームを好きになる理由となり得るからです。そういった瞬間において、プレイヤーが何を目指しているのか、何に興味を惹かれるのかを把握し続けることは不可能です。壮大で複雑なシナリオの面からプレイヤーを把握するような場合とは違います。だからこそ、世界を生き生きと感じさせつつ、プレイヤーの関心を惹く点が干渉しあって負担とならないように、バランスを考えなければなりません」

空想に現実味を

不可能をもっともらしく見せる方法とは? さらに重要なのは、どうすればそれに説得力を与えられるのでしょうか? Arkaneならではの高い没入感を達成するには、プレイヤーへの説得力が必須なのです。これは楽な仕事ではありません。

「なんといっても、デザイン面でもアート面でも、常にプレイヤーを驚かせたいという気持ちがあるからこそ、“ファンタジック”な要素を取り入れられるのだと思います」とSaquetは語ります。「しかし、私たちは没入感も大事だと考えています。細部のひとつひとつまで考えて、全てに意味を持たせ、実在の場所のように感じられるようにしたいのです。ステージデザイナーとステージアーティストが常に協力することで、そのバランスが取れています。両チームは並行して作業を行い、一方はゲームプレイ、もう一方はグラフィックに集中します。常にこの2つの視点から、クールで独創的なアイデアの追及に取り組んでいます。そのおかげで、両チームから独創的なアイデアが生まれるのです。同時に、両チームはお互いにとっての安全装置のような役割も果たしています。ステージアーティストは“建物が構造的に成り立つようにして、説得力を与えたい”と考える一方で、ステージデザイナーは“プレイヤーが直感的にステージを理解して、計画を立てられるようにしたい”と考えます」

Nightingaleは語ります。「ステージを制作するチームは大規模です。様々なスキルを持っているデザイナーやアーティストが所属しており、その多くが建築設計やエンジニアリングの素養を持っています。私たちが想像力を大いに発揮できるのは、うちのチームはどんなことでも確実に実現できるだけの専門知識を持っている、と信じているからです。プレイヤーがゲームに没頭しなければ幻想を作り上げることに意味がない、とは思いません。その幻想に一貫性があり、目に見えるものであれば、ゲームへの没入感を高める大きな助けになるはずです」

ささいなこと

各ステージにある要素はどれも、綿密に考えられた上で作られ、実装されています。全てを形にするのは、ステージデザイナーだけの役目ではありません。チーム全体が一丸となって、あらゆる要素に目的やストーリーを持たせ、さらにおそらく最も重要な点として、そういった要素がちゃんと機能するように取り組みます。ステージの構造は直感的であるべきですが、Arkaneにとっては独創性とクオリティの高さも欠かせません。たとえ一般的なプレイヤーが、裏で何が起こっているか知覚できない場合であっても、です。

Arkane Austinのアート・アウトソーシングマネージャー、Eric Beyhlが言います。「『Prey』のオープニングシーンはとても満足いく仕上がりです。アート、デザイン、ストーリーの担当チームが一丸となって、計画とテストを繰り返すことで、シーン全体を完璧に仕上げることができました。どうすれば手がかりを全て示しながらプレイヤーをミスリードできるか、という演出上の問題がありましたし、さらに技術的な問題もありました。動く壁やルッキング・グラスの仕掛けを全て実際に機能させる必要があったんです! そういった全部が一体となって、あらゆるゲームで最も印象的なオープニングが生まれ、さらにゲーム全体の“何も信じるな”という雰囲気が生まれているんです」

「これは『Prey』で特に気に入っている点です」と付け加えるのは、『Prey』のリードプロデューサーを務め、現在はArkane Austinでビジネスディレクターを務めているSusan Kath。「プレイヤーには見えないようになっていますが、あの裏では壁や仕掛けが実際にあのように動いているんです。細部まで作り込み、説得力にあるものにしようと皆で全力を尽くしたので、それが報われましたね。私たちは、細部にこだわるのが大好きなんです」

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Anne Lewis

Sr. Global Content Lead