
Arkaneの世界を作る
『Dishonored』が発売されてから何年も経ちましたが、今でもダンウォールのことがふと頭をよぎります。あの世界に行って、もっと秘密を解き明かしたくてたまらなくなります… そのおかげでゲームを何周もしてしまいました。本当に生き生きと感じられる作品世界のおかげで、自分だけの物語を紡ぎたいという気持ちが湧いてきますし、それはゲームをプレイする際に欠かせないものです。私は悪臭漂うダンウォールの路地をこそこそと歩き、衛兵の会話に耳を澄ませます。私はコルヴォとして、不殺プレイを貫いています。なので、見つかってしまったらクイックセーブからやり直しです。
ディテールに満ちあふれていながら、プレイヤーが独自の物語を作り出せる余地のあるようなゲームを開発するには、開発者にとって繊細なバランス感覚が求められます。生き生きとしていながら、押しつけがましくない世界。ユニークで記憶に残るものでありながら、しっかりと現実感や馴染み深さを感じられる世界。そうした世界を生み出せることがArkaneの強みです。そして、開発者たちが真心を込めて細部にこだわるおかげで、Arkaneとプレイヤーの両方がそれぞれの物語を紡ぎだせるのです。
ささいなこと
Arkaneの世界は、主人公の物語を進めるための背景や道具、というだけではありません。そこには歴史があるのです。そこには独自の精神があり、オースティンオフィスとリヨンオフィスのチームは、それぞれの世界に命を吹き込むために全力を尽くしています。
「私たちは、歴史の厚みを感じられるディープな設定を作ることに力を注いでいます」と語るのは、Arkane Austinでスタジオ/クリエイティブディレクターを務めるHarvey Smith。「私たちは、ある場所の建築様式がどのようなものか、そして人々がどのように集団で移住したか、さらには食物が時代と共にどのように変化したか、といったことを理解しています。Arkaneは、世界を作るうえで細心の注意を払うスタジオです」

一方、Arkane LyonのゲームディレクターであるDinga Bakabaによれば、作品世界を作るために必要なアプローチはゲームごとに異なるといいます。どの作品世界にも同じアイデアや原則を当てはめると、出来上がる世界はどれも同じになってしまうのです。Bakabaいわく、「たとえ大雑把であっても、まずはプレイヤーのことを考えるようにしています。“プレイヤーはここで何を想像するのか? そして、何をするのか?”そうすることで、私たちの作りたいキャラクターが浮かび上がってきます。そこから、そのキャラクターを中心として物事を定義していきます。プレイヤーやキャラクターはそれぞれ異なります。世界を構築する際には、プレイヤーの目標やそれにまつわる疑問について、それぞれ異なる筋道を踏んで創造性を発揮しなければなりません」それに加えて、Arkaneの手掛ける世界は、主人公の想像力の限界をはるかに超えていることも忘れてはなりません。「作品世界は主人公を表現するものです。ただし、作品世界が主人公のためにあるように思わせる必要はありません」

表現したい世界を構築する途中でチームが行き詰まってしまった場合は、一歩戻って、すでに書き出したものを検討します。Bakabaはこう説明します。「まず、“この世界に政府は存在するのか”といった大きな疑問から考えていきます。あとはそういった疑問を全部書き出して、後で踏み台にできるようにします。世界観がはっきりしてきたら、答えをさらに掘り下げて煮詰めていきます。目標とするのは、ほとんどの質問に作品世界固有のロジックを使って答えられるようになるレベルですね」
開発チームは、自分たちが思いついた答えをどうやってプレイヤーに向けて表現しているのでしょうか? Arkaneは、ゲームのメインストーリーにあらゆるディテールを詰め込むのではなく、作品世界の歴史自体が引き立つような手法を採っています。ストーリーをダイレクトに語るのではなく、周囲の環境にストーリーを語らせるのです。

Arkane Austinのシニアステージデザイナーを務めるSteve Powersが、初代『Dishonored』を例に解説します。「私が気に入っている“環境ストーリーテリング”があります。『Dishonored』でエミリーの描いた絵に、プレイヤーの行動や選択から生まれた世界を反映させたんです。この無邪気な少女が、串刺しにされた生首を描き始めたときのプレイヤーの反応を見て、とても満足できました」
ステージデザインの特集記事において、Arkane LyonのキャンペーンデザイナーDan Toddは、ステージデザインと作品世界を構築する作業の大部分は、説得力のあるリアルな世界を作り上げることであり、それによって“奇妙さ”が引き立つのだと語っています。だからこそArkaneのチームは、“ロア”や作品世界における細かな演出を重ねることで、プレイヤーに反応する生き物のように感じられる、没入感あふれる世界を生み出すのです。

ゲームの世界に現実味を与えることで、突飛な要素がより引き立ちます。『Dishonored』の世界が持つ深い没入感がなければ、アウトサイダーは神のごとき超越的なトリックスターというよりも、風変わりなユーモアのセンスを持つ、おせっかいなゴスファッションの男に思えてしまうでしょう。ゲーム内のあちこちに置かれた祭壇や、暗がりに置かれ忘れ去られたボーンチャーム、一見“リアル”なこの世界で、何か奇妙なことが起こっているという微かな兆候… こういった“ささいなこと”や細部へのこだわりのおかげで、Arkaneゲームのステージや作品世界は強く印象に残るのです。
隙間を埋める
「作品世界に物語性を取り入れるとなると、プロジェクトごとに取るべきバランスは異なります」と、Arkane LyonのアートディレクターであるSebastien Mittonが説明します。「私たちの哲学は、ちょっとしたディテールをふんだんに盛り込むことで、あちこちを探索したり体験することが大好きなプレイヤーが、自分自身で発見し、達成感を得られるようにすることです。それと同時に、ゲームを遊びやすくし、カジュアル寄りのゲーマーでも十分なディテールを見つけられるようにします。そうすることで、彼らがストーリーの全容を把握し、自分たちのいる世界を理解できるようになるのです」

Powersは、「まるで私がすごく邪悪な人間みたいな話になりますが…」と何やら恐ろしげに語り始めます。「私がArkaneでデザインしたものの中で特に気に入っているのは、『Dishonored』のDLC『The Knife of Dunwall』に登場する鯨の解体場です。これはステージとロケーションを使って、『Dishonored』の世界観を構成するフィクションをプレイヤーに見せる絶好の機会となりました。例えば、傷つけられる獣たちに向けてバンドリーが聞き取れない声を上げる場面など、あらゆるディテールから捕鯨の恐ろしさが伝わってきます。残酷な光景ですが、プレイヤーに私たちの世界に独自性を感じてもらう上で重要なんです」

Arkaneの作る世界はまるで氷山のようです。表から隠された部分の方が圧倒的に大きいのです。筆者のように探索好きなプレイヤーにとってはたまりません。ダンウォールを再訪するたびに、歴史や政治的イデオロギーにおける新たな事実を見つけ、いくつかの派閥における宗教過激派について知識を深めたり… 多彩な面を知ることができるのです。さらに、一見するとランダムなNPCの暮らしぶりには、驚くほど緻密なディテールが存在することも分かりました。これは、Arkaneの作品世界がリアルで、生き生きと感じられる理由のごく一部にすぎません。

「まさにその理由で、『Dishonored』に登場する監督官たちが好きなんです」とBakaba。「彼らの信念体系や聖典を掘り下げると、そこには確固とした宗教があることが分かります。ある点では過激で、ある点ではちゃんと筋が通っているように思えますが、現実にそのような宗教に従っている人々がいる、と想像してみてください。つまり、監督官は嫌な奴ですが、ある意味では正しいということです! アウトサイダーが存在し、人間の命をもてあそんでいるんです。ゲームの中で探索するのはとても面白いですし、私たちが好きでこういった題材に取り組んでいることも、プレイヤーの皆さんにArkaneの世界で楽しい時間を過ごしていただける秘訣のひとつだと思います」
ここまで聞くと、またDishonoredをプレイしたくなってきました。もう一周するとしましょう。